これも富山県の話である。相手は、ツキノワグマ。これは手ごわい。
県内には、火山の堆積物がある。特に、火砕流堆積物は高温で流れ下って来て、冷えて固まる。この固まる時に、堆積が減少して大きな割れ目が出来ることがある。この火砕流堆積物を調査するため、ハンマーでたたきながら崖を下っていった。かなり、崖を下ったとき、なんともいえない特有な獣の臭いがした。まさに、崖に開いた大きな裂け目からである。不思議に思っていると、その裂け目から大きなクマが飛び出してきた。時期は晩秋で、クマは冬眠の準備中だったみたい。
びっくり仰天、私は崖の草に摑まりながら西側の崖沿いに飛び出した。クマはというと反対の東側の崖に沿って走っている。20mほど走ったが、崖の上であり、不安定このうえないが、必死である。はっと我に返ると、目の前は、草も木もない1枚岩の切り立った崖が出現した。比高差100m以上もある地域で有名な崖である。
クマのいる後ろに戻るか、崖を上に上がるか、降りるかの選択だ。崖を下ることは出来ない。かといって、クマのいる元来た通路を戻るのも怖い。瞬時に崖を登ることにした。何とか足場は確保できそうだ。黙々と登る、3点確保。でも早く登りたい。いつクマが心変わりするかも知れない。ドラマの女性のように。
長く感じたが、崖の上に上り詰めたとき、やれやれと座り込む。目の前にカモシカがいた。いつもは怯むが、この時ばかりは、そこを退けとばかりにカモシカを追いやる。カモシカの臭いはクマほどではない。臭いが違う。クマの臭いは、もう忘れられない。今度出会うときには、事前にわかると思う。自分も野生になったのか。時に人間も野生に帰ることも重要かも知れない。
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